小さい頃から綺麗だなぁと思いながら通り過ぎていたドーム。
それが静岡市役所の本館「あおい塔」であることを知ったのは、大人になってからのこと。以降「市役所とドームを見ること、向かいの県庁を見ること」は、私のバケットリストに加わることになりました。
なぜまたそんな役所巡りを…と思われるかもしれませんが、静岡市役所本館は日本と大陸を股にかけて活躍した建築家、中村與資平(なかむら よしへい)の設計であり、静岡県庁本館も中村與資平が実質設計に関わった建物なのです。
この記事では、まず市役所本館からご紹介したいと思います。

目次
歴史的な場所に相応しい庁舎
現在の静岡市役所新館横には、静岡御用邸跡地の石碑が建っています。
静岡御用邸は1900年(明治33年)に建てられましたが、わずか30年ほどで廃止、後に静岡市に払い下げられました。
静岡市は御用邸の貴重な建物はそのまま保存し、1934年(昭和 9年)敷地内に中村與資平設計の新庁舎を完成させました。
美しいドームが特徴の静岡市役所本館です。
静岡御用邸は残念ながら1945年(昭和20年)6月静岡空襲によって消失してしまいましたが、市役所本館は戦火に耐えて現存しています。
1987年、消失した御用邸の跡に、地上17階の市役所新館が建てられました。
御用邸跡地であり駿府城の目の前。
静岡市役所は、そんなとびきり由緒ある場所に立地しているのです。
下の写真一枚目は市役所本館が建つ前の静岡御用邸全景。
二階建ての和風建築だったようです。
二枚目と三枚目は、本館完成当時の写真です。
特筆すべきは二枚目の写真。
左手に静岡御用邸の屋根がちゃんと写っているのです!
静岡市役所本館が竣工してから、終戦の年に御用邸が消失するまでの11年間、本当に並んで建ってたんだと思うと感慨深いものがあります。
できることなら、今、この目で見たかったです。
(全ての写真はクリックすると拡大してご覧いただけます)
- 元静岡御用邸全景
- 新市庁舎外観
- 市庁舎付近風景
静岡県立中央図書館デジタルライブラリー「静岡市庁舎落成記念帖 昭和9年10月」より引用
外観概要
本館の工事概要については、「静岡市庁舎落成記念帖」に詳細が記録されています。
外観様式は、”スペイン風を加味せる近世式”。
主体構造は鉄筋コンクリート造り(附属家木造)で、地下1階、地上4階建。
その上に塔屋を置き、塔頂にドームを載いています。
外壁は主に象牙色のタイル貼りで、窓枠ほかの主要な装飾にはテラコッタを使用。
塔屋の胴まわりやドーム先端の装飾部分にも白いテラコッタが使われ、ドームはモザイクタイル貼り(一部ゴールデンモザイク)となっています。
「静岡市庁舎落成記念帖」には、内装についても詳しく記されていますが、
旧字かつ専門用語の羅列なので解読は断念…。
車寄せ前のソテツは、竣工当初からこの景観の一部として植栽されていました。
ガス燈は、平成元年に静岡ガスが3基寄贈したもの。
まるで最初からあったように風景に溶け込んでいます。
車寄せから玄関ホール
車寄せのアーチをくぐり、大理石の階段を上がって、銅の扉のエントランスから玄関ホールに入ります。
玄関ホール天井は、石膏亀甲型ペンキ仕上げ。
アイボリー色の亀甲をパステルピンクで縁取り、可憐な花のシャンデリアを配置。
なんて素敵な組み合わせでしょう(涙)
- 銅製の扉
- 旧市章
- 玄関ホールの階段
結構有名らしいのですが、玄関ホール左側の大理石の壁には、化石が見られます。
日本橋三越や高島屋などの老舗百貨店は、やはり大理石の壁に化石があることが知られていますが、地元にもありました。
- アンモナイト?
- 巻貝みたいなヤツ
- ニョロニョロの虫?魚?
- これも貝かな
自分では見つけられなかったので、職員さんに一緒に探していただきました。
2cm前後の大きさなので、よほど目を凝らさないと発見は難しいかも。
夏休みの研究課題がまだ終わってない子供達、化石の研究はどうでしょう?
化石にもいろんな種類があるようですよ。
1階広間
中に入ると、右には市民ギャラリー、左手に受付、事務所があります。
こんな歴史的建造物の中で仕事ができるなんて実にうらやましい。
暗い中での撮影のため色がわかりにくいのですが、1階広間の天井は、白を基調にしてパステルブルーのペンキで枠取り。
ここにもまた、麗しの花のシャンデリア。(うっとり)
階段の正面踊り場のステンドグラスは、デフォルメされた植物、ハート、水玉などのモダンで可愛らしいデザイン。驚くほどシンプルです。
階段を横から見ると、いかにもスペイン風な彫刻が施されていました。
軽妙なのに格調高い手すりがいい。
ドームまでの道のりは長く険しい迷路
市のサイトにドーム見学の申し込み欄が見当たらなかったので、直接受付の方に、案内は要らないので勝手にドームまで行って見学しても良いかどうか聞いてみました。
しかし塔屋に勝手に行くことは無理なようで、突然お願いしたにもかかわらず、管財課の方がご対応くださることに。
恐縮しまくりながらも、お願いすることにしました。
いざ立ち入り禁止区域を進み、急な階段をいくつか上り、いちいち鍵を開けて倉庫や機械が並ぶ部屋を通り抜け、迷路のような館内をただひたすら職員さんの背中を追いかけていました。
最後に真っ暗な階段の上を持ち上げると、一気に光が差し込んで、いよいよ塔に到着したのだということがわかりました。
最初はエレベーターか階段で簡単に行けると思い込んでおり、こんな大事になるとは思ってもみませんでした。
とても簡単にお願いできるレベルではなかったです。
やいやい…(大汗;)
*ちなみにこれは静岡の方言で「いやはや」の意。主に高齢男性が使用。
「あおい塔」登頂!
やったー!塔に到着です!!
- 塔から向かいの静岡県庁別館を望む
- 左に映っているのは市役所新館
塔頂の高さは地上42.4m。
八角形の塔屋にぽっかり開いた市内を見渡す4つのアーチ窓が、目の前に現れました!
塔の中はものすごい開放感。
アーチ窓には腰ほどの高さの柵があるだけで、風が通り抜けていきます。
窓枠の白いタイルの質感や丁寧な細工は、ここに行かなくては味わうことができません。
- 静岡県庁
- 静岡市役所 新館。かすかにドームが映り込む
- ライトアップ機材
外に目を向けると、隣の市役所新館や向かいの県庁、駿府公園を直に一望できます。
この景色を独り占めなんて、何ものにも代えがたい最高の贅沢です。
いったい今までどんな人達が、ここからこうやって外を眺めたんでしょうか。
隣の新館の窓ガラスに映り込むドームも見どころのひとつだと教えていただきましたが、うまく撮れませんでした。二度と撮れないのに残念!
- 塔屋外壁のテラコッタ装飾
- 三角点
- 塔屋までの出入り口
床の中央にはライトアップの機材が鎮座。
闇に浮かぶドームもさぞ美しいことでしょう。
それから教えていただいたのが三角点の板。
「四等三角点 建設省 国土地理院」と書かれています。
四等三角点というのは、現在でも市町村等が国土調査(地籍調査)を実施するための基準点として設置しているらしいのですが、塔に置かれているものは非常に珍しいとのこと。
現在も使われているかどうかは、職員さんでもわからないそうです。
なんたって”建設省”ですし。
内部は思ったほど広くはなく、出入り口やライトアップの照明などがあって余分なスペースはそれほどありません。
天井はドームではなく、漆喰塗りになっています。
内部全体を撮れなかったのは痛恨の極みです。
ずっと下から見上げるだけだったドームにいるなんて、夢を見ているようでした。
凝った細工の白いテラコッタの塔屋にパステルピンク、パステルブルーの彩色、その上に乗ったモザイクタイルで飾られたエキゾチックなドーム。
こんなに可愛くてエレガントな塔って、なかなかないと思うのです。
中村與資平はこのドームを「静岡市の王冠」に例えたらしいですが、私はプリンセスドームと呼びたい。
あらためて静岡市役所本館の感想
シカゴで見た○○様式ドーン!というドヤ顔な建築物は、もちろん素晴らしいけれど権威的で、温かみがあるというのとは程遠い存在。
ですがこの市役所本館は、素晴らしい様式建築でありながら、来館者を威圧しない柔らかさ、市役所としてちょうど良い距離感を持っているように感じます。設計・施工がいずれも地元の方たちということが、より親近感・愛着を感じさせるのかもしれません。
私の知識と語彙力では感じたことを的確に表現できないので、専門家の文献を調べてみると、中村與資平の建築を『スパニッシュ・コロニアル・リバイバル』と呼ぶものを発見。
まさにこれ。ようやく納得いく言葉が見つかりました。
全体的な雰囲気はスペイン風で、コロニアルなエレガントさも持ち合わせ、可愛いパステルカラーを使ったりする新しさがあるかと思うと、どこか昔の大陸の風を感じさせる部分もあり…。
いろんな要素を絶妙なバランスでうまくまとめ上げていて「中村與資平さんって、すごい方だ」と今更ながらリスペクトした次第です。
参考: 豊橋市公会堂の意匠におけるスパニッシュ・コロニアルリバイバルの影響について/伊藤晴康
食堂&コミュニティスペース「茶木魚(ちゃきっと)」
迷惑ついでに職員さんにオススメのランチ場所を聞いてみたら、即答で「市役所の食堂」!
若手職員さん中心のプロジェクトチームによって、市役所食堂を「コミュニティー&ダイニングスペース」にリニュ-アルしたもので、2019年8月5日(月)にオープンしたばかり。
中は静岡市産の木材(オクシズ産)等をふんだんに使ったウッディな内装で、いろんなシチュエーションに対応した席が用意されていて、小上がりのスペースまでありました。靴を脱いでゆっくりしたり、お子さんを遊ばせてもOK。
もちろん食事にも地元食材を使っていて、スイーツもご自慢だそうです。
ランチやカフェだけでなく、休憩や待ち合わせ、コミュニティースペースとしても使えるのがここのすごい所。
オープンしているのは平日限定ですが、お子様連れの方、ご年配の方、旅行者には特にオススメです。
おすすめの静岡みやげ
どこまであつかましいんだか、おすすめの”静岡みやげ”についても職員さんにリサーチしちゃいました。
1 『茶っふる』
前田金三郎商店 茶町KINZABURO
駿府城の城下町である静岡市には、江戸時代、駿府九十六ケ町といって職種ごとに町が築かれました。茶商が集まる茶町もそのひとつ。
最近では、400年の歴史を持つ茶町に、日本茶カフェも目立つようになりました。
中でも茶町KINZABUROの自家製お茶スイーツは大人気です。
2 『こっこ』
静岡定番のお土産のひとつ『こっこ』。
「ひよこじゃないよ、こっこだよ」というCMで有名。
東京名物『ひよこ』に対抗した爆笑CMです。
もっとも名前が似ているだけで、中身は全く違います。
ご案内くださった方、お話を伺った方、どなたからも静岡愛がビンビンに伝わってきました。お世話になった皆様に心より感謝申し上げます。
