伊豆半島の東西に横たわる天城連山。
万三郎岳(1406m)を筆頭に登山者に人気のあるハイキングコースですが、ジオの目で見てもなかなか興味深い山です。
森の中に残る火山の記憶
八丁池口バス停から歩き始めて20分もするとブナやヒメシャラといった落葉樹の森が広がり、その床はふかふか。そんな林床には、軽石、安山岩、黒曜石といった小石を見つけることができます。
かつて火山であった天城山の記憶です。
原生林に囲まれた八丁池
出発して1時間ほどで八丁池の展望台。
八丁池は「天城の瞳」とも呼ばれ、長い間「火口湖」とされてきましたが、近年の調査によって断層がずれたことによって生まれた「断層湖」であることが分かっています。
八丁池はモリアオガエルの産卵地としても知られており、5~6月頃の湖畔には、卵塊が見られるかもしれません。
ブナの原生林が広がる皮小平(かわご平)
八丁池を過ぎて「天城縦走路」に合流。
出発して1時間半くらいで戸塚峠。
そのまま縦走路を進むと万三郎岳へと向かいますが、目指すのは皮小平。
戸塚峠から尾根を下った大きな窪地です。
文字通り、その窪地は平らで、広さは東京ドーム1個分の広さとか。
皮小平で最初に出会うのは推定樹齢200年以上といわれるブナの巨木。
さらに進むとサワグルミ、ヒメシャラ、ホウノキといった落葉樹の森。
ブナとヒメシャラが混生するこの森は、植生の遷移上珍しく、林野庁の保護林になっていようです。
森の床に目を移すと、岩や倒木はびっしりと苔に覆われており、スギゴケの間からはブナの幼木が育っています。
ヤマトリカブトが茂り、ブナの森ではよく見かける大型のオシダが岩肌に根を張っています。
まさに“緑の洪水”といった景観ですが、視線を上げると、深いピンク色のアマギツツジが彩りを添えています。
伊豆東部火山群の中でも最大規模の噴火火口跡
皮小平は斧を知らない原始の森といった風情ですが、実は約3200年前(縄文後期)に大噴火した巨大な火口跡。
地質調査によって、この火口から流れ出した粘り気のある溶岩は
天城山の北斜面を流れ4kmほど下った現在の伊豆市筏場まで達し、その溶岩は厚いところで50mほどもあることが分かっています。
その火口跡の痕跡を見ることができます。
皮小平のブナの森を西の端に進むと、急に視界が開けた場所があります。
現在は、シカの食害から植生を守るために金網が張ってありますが、周りを小高い山に囲まれ、地形的には興味深い場所。
ワサビの産地 筏場(いかだば)
皮小平から戸塚歩道を筏場に向かって下ります。
かつて天城山を挟んで南北を往来していた峠道のひとつで、樵や炭焼き、猟師も歩いたに違いありません。途中にはスギやヒノキの巨木があり「精英樹」と書かれた杭。聞けば、材木としての優良木とのこと。
皮小平は見事な落葉樹の森ですが、意外にも水がありません。
理由は溶岩台地のせい。
縄文後期の大噴火による分厚い溶岩にはたくさんの亀裂があり、山腹には水が溜まりにくいといった地質だといいます。富士山にも似ていますね。
その代わりに、溶岩の末端である筏場には清浄で豊富な水が溢れ出しており、伊豆半島屈指のワサビの産地になっています。
皮小平から50分ほどで筏場林道。
林道脇には、皮小平火口が噴出した火砕流の地層も見ることができます。
