西伊豆エリア

ジオと伝説を辿って三浦歩道を歩く 岩地~石部~雲見 伊豆半島ジオパーク

伊豆半島ジオパーク 烏帽子山

駿河湾に面した岩地、石部、雲見の3地区を「三浦(さんぽ)」と呼びます。
かつて三つの浦を結んだ山道は、現在遊歩道として整備されており、ジオ・ポイントになっています。

“石の集落”―岩地の風景

国道136号線の一里塚バス停にほど近い駐車場から見下ろすと、海辺の岩地集落があります。

岩地の浜

岩地は、名前の通り岩や石がやたらと目に付く土地です。集落に下る途中には石垣の段々畑。浜辺に面した家々の前には立派な石積みの古い防潮堤が残っています。軒を連ねる家並みの狭い路地に入り込むと、人の背丈ほどもある石垣の上に家が座っています。

聞けば、浜の右手の長磯という岩場から切り出した石が段々畑の石垣や防潮堤、屋敷の石垣などに使われてきたそうです。石は「長磯石」と呼ばれる伊豆石のひとつ。火山灰が固まった凝灰岩の一種で、軽くて加工しやすいという特徴があります。

極めつけは、迷路のような路地の奥に鎮座する諸石神社。創建は室町時代の元禄元年(1588)と伝えられており、その佇まいはまるで城郭。整然と積まれた石垣の上に拝殿、さらに石段を上ると本殿です。そこからは湾内が一望でき、かつてはボラ漁の見張り台として使われていたといいます。地元では「梵天さん」と呼び親しまれる岩地の氏神さまです。

諸石神社

かつて浦々を結んだ三浦歩道

岩地から、国道136号線を歩いて30分弱で、石部の集落です。ひっそりとした入り江の片隅に露天風呂が湯気を立てています。

石部という地名は、もともと「石火」だったと伝えられています。その説を裏付けるものが住宅地の中にありました。「石火石」という大岩で、雌雄ふたつあります。ジオ的には海底火山の噴火の名残りですが、古人は、神が宿る大岩として祀り、雄石の頂上部の窪みで神火を燃やし、灯台のような役割をしていたともいいます。

石火石

集落を見下ろす山腹に鎮座する伊志夫(いしぶ)神社の創建ははっきりしませんが、室町時代の天文12年(1543)に建てられた社殿の棟札には「石火大明神」、「石火村」の記載があるようです。いまの地名は、江戸時代、村にたびたび火災があり、“火”の字を嫌った村人が“石部”に変えたと伝えられています。

伊志夫神社からほど近いところに石部と雲見を結ぶ三浦歩道の入り口があります。ほんの50年前まで浦々を行き来していた生活の道は、うっそうとした木々に囲まれた山道です。
長い登りの後の黒崎展望台、三競展望台からの眺めは一服の清涼剤。三競展望台から眼下に岩地、石部の浦々が見え、空気が澄んでいれば富士山も望めます。

三浦歩道

雲見に向かう遊歩道の脇の藪を少し分け入ったところに、古代遺跡を思わせる石切場跡があります。薄いオレンジ色から白味がかった凝灰岩で「サクラ石」と呼ばれる伊豆石の石切場跡です。

石切場跡

三浦歩道はいったん赤井浜で国道136号線と合流。赤井浜バス停近くには石切場跡を利用したパゴタと呼ばれる霊廟があります。なんとも不思議な霊廟です。

海底火山の記憶が伝説として生きる

赤井浜から、もうひと山越えると民宿が軒を連ねる雲見。
複雑な海岸線は“奇岩”の名所であり、天気に恵まれれば砂浜から駿河湾越しに富士山が見える景勝地。雲見にはこのコースの一番の見所ともいえるジオ・ポイントがあります。千貫門と烏帽子山です。
絶景ポイントであり、また、古くから地域の信仰の対象だったようです。
伊豆半島ジオパークの案内板が立つ雲見海水浴場を起点にして、どちらも往復で60分くらいの道程。

民宿街を流れる太田川の上流へと遊歩道を進み、山道を登ること約20分。視界が開け、切り立った海岸線を見渡せる展望台へ。
さらに海岸へ下っていくと海上に突き出した巨大な岩が目の前に迫ってきます。千貫門です。

千貫門

岩の中央には波で削られたトンネル(海食洞)がぽっかりと口を開けています。ジオ的にいえば、かつての海底火山の“マグマの通り道”が冷えて固まり、隆起して地上に現れた後、雨風の侵食によって削り出されもので「火山の根(火山岩頸)」と呼ばれます。

同じ「火山の根」である標高162mの烏帽子山は、途中に428段の石段があり、庇状に張り出した断崖絶壁の山頂はスリルと絶景が同時に味わえるはず。

烏帽子山の雲見浅間神社

烏帽子山の山頂には雲見浅間神社が鎮座します。普通、富士山を神体とする浅間神社の祭神といえばコノハナサクヤヒメですが、ここに祀られているのは姉のイワナガヒメ。神話によると、天照大神の孫であるニニギノミコトに姉妹は嫁いだものの容姿の悪いイワナガヒメは里に返されてしまったそうです。地元では、富士山をほめると怪我をするという言い伝えがあるそうです。くわばらくわばら。

岩地、石部、雲見という三浦を巡ると、海底火山の記憶が、伝説や信仰という形で、いまに生きているという気がしてきます。

ABOUT ME
Hideki
Hideki
登山・アウトドア系のフォトライター。静岡に移住後は、富士山をライフワークに。年をとったのでハードな山登りはほどほどにして主に平地に生息している。
伊豆半島ジオパーク必携ガイド

伊豆半島ジオパークトレッキングガイド―伊豆の山歩き海歩き
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